2013年7月6日土曜日

面積計を使う調和解析器

コンピュータやFFTの無かった時代, 調和解析には機械式の道具が活躍した. 調和解析器(harmonic analyzer)といえばKelvin卿のを思いだすが, もっと違う方式のものを最近知った.

G.U.Yule, "On a Simple Form of Harmonic Analyser," Proceedings of the Physical Society of London, XIII, 1894 に発表されたもので, 私はO. Mader, "Ein einfacher harmonischer Analysator mit beliebiger Basis," Elecktrotechnishen Zeitschrift, 1909を読み, どういうものかが分かった.

R.K.Otnes, "Notes on Mechanical Fourier analyzers"には下のような図が出ている.



左のパンタグラフのようなものは上下2台の面積計である. 右がその仕掛けで, 右上に円板がいくつか見えるのは, 求める係数により, 取り替える歯車である.

Maderの論文の図を書き直したのがこれだ. 計測の出発位置を示す.



下の方の曲線が計測すべき周期関数で, x=0からx=aまでが1周期である.

上のL字形の部分は台車(Wagen)で上下に動く. その台車の右の腕の先にKという軸があり, 梃子(Winkelhebel)FKSがその軸で回転できる. Kのx座標は下の曲線のa/2で, この時のKのy座標をh0とする.

梃子の下の腕の長さはmで, その先のポインタ(Fahrstift)Fで曲線を追跡する.

長さlの反対の腕の先にはローラーSがあり, その上下で左の歯軌条(Zahnstange)ZZ'が一緒に上下する.

台車にはDを軸とする半径Rの歯車(gezahnte Scheibe)があり, 台車に対するZZ'の相対的上下移動に従って回転する. 出発位置でのDの座標を(b,g)とする. この歯車には, 中心からrだけ離れた左と上に孔PsとPcがあって, それに面積計のポインタを接続する. つまりFが曲線を追跡し, 一周して来ると台車や梃子が動き, 歯車も上下に移動しながら回転し, その歯車の1点の描く面積を計算するのである. RはFがx=0からx=aまで移動した時に丁度n(係数の次数)回転するように出来ている. (製品によってはPsとPcの歯車が別になっていたらしい. 最初の図で同じ大きさの円板が2つずつあるのはその例だ.)

次数nに従ってRは変わるから, それぞれの歯車に対応して異なる軸用の孔が用意されている.

さて, Fを曲線の(x,y)まで移動した時の図が下だ.



Kの座標はy+hだ. hはFがx=0にあるときはh0だが, xがa/2になるまで増えるとhもh0より増え, a/2を過ぎると減ってx=aでh0になる.

ここからは式が多いのでTexで書く.





という次第で, Fls, Flcが求まるとBn, Anが得られる.

Maderの論文の最後に例があった. 周期が360ミリの鋸歯状波である.

下の図でA(0,0)からB(360,200)へ増加し, BからC(360,0)へ降下する波形だ. この図ではFはAにある. 歯車の赤丸はPs, 青丸はPcを示す. 最初の係数A0はcos 0=1を掛けて足すから, 面積計だけを使う. 面積は36000平方ミリだから平均の高さA0=100ミリである.



m=360ミリ, l=180ミリ, n=1, R=al/2πmn=28.6479ミリ, rもRと同じにした. 従ってK=90ミリである. (このKは梃子の軸のKとはもちろん違う.)

ABを20分割, BCを10分割, CAを20分割した各点での挺子の位置と歯車とPs, Pcの位置を示したのが次の図である.



これではよく見えないから, Ps, Pcの位置だけ取り出すとこうなる. 0番はA, 20番はB, 30番はCに対応する. BからCはx座標が変わらないから, 歯車は回転せず, 台車だけが下がるのが分かる. また歯車はちょうど1回転した場所なので, Psは左端に, Pcは上端にあることも理解できる.



Psのx座標, y座標, Pcのx座標, y座標は次のようであったので, その閉曲線の面積を計算すると, Fls=-5729.58301, Flc=0.00170898438. よってB1=-5729.58301/90=-63.6620331(ミリ). Maderの例の例の理論値と一致した. やれやれ. もちろんB7までもすべて一致している. 機械を使った実測値も2,3桁の精度なのはすごい. (上の右の図で面積が0なのを見るのは難しい.)

(-28.65 -27.25 -23.18 -16.84 -8.85 0. 8.85 16.84 23.18 27.25
28.65 27.25 23.18 16.84 8.85 0. -8.85 -16.84 -23.18 -27.25
-28.65 -28.65 -28.65 -28.65 -28.65 -28.65 -28.65 -28.65
-28.65 -28.65 -28.65 -27.25 -23.18 -16.84 -8.85 0. 8.85
16.84 23.18 27.25 28.65 27.25 23.18 16.84 8.85 0. -8.85
-16.84 -23.18 -27.25)

(311.77 340.34 366.78 390.41 410.66 427.22 439.97 449.1
455.03 458.4 460. 460.7 461.36 462.75 465.48 469.92 476.17
484.05 493.11 502.64 511.77 491.77 471.77 451.77 431.77
411.77 391.77 371.77 351.77 331.77 311.77 312.64 313.11
314.05 316.17 319.92 325.48 332.75 341.36 350.7 360. 368.4
375.03 379.1 379.97 377.22 370.66 360.41 346.78 330.34)

(0. 8.85 16.84 23.18 27.25 28.65 27.25 23.18 16.84 8.85
0. -8.85 -16.84 -23.18 -27.25 -28.65 -27.25 -23.18 -16.84
-8.85 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. 0. -8.85 -16.84 -23.18
-27.25 -28.65 -27.25 -23.18 -16.84 -8.85 0. 8.85 16.84 23.18
27.25 28.65 27.25 23.18 16.84 8.85)

(340.42 358.74 373.12 384.07 392.27 398.57 403.87 409.09
415.02 422.3 431.35 442.3 455.02 469.09 483.87 498.57 512.27
524.07 533.12 538.74 540.42 520.42 500.42 480.42 460.42
440.42 420.42 400.42 380.42 360.42 340.42 348.74 353.12
354.07 352.27 348.57 343.87 339.09 335.02 332.3 331.35 332.3
335.02 339.09 343.87 348.57 352.27 354.07 353.12 348.74)
ところでこれで調和解析ができることが直観的に分かる方法はないだろうか.

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