2022年9月20日火曜日

満月の十五夜

今年は9月10日が中秋の名月, つまりお月見であった. 幸いよく晴れて, 満月が堪能出来た.

ところで新聞が「今年の中秋の名月は満月」と報じた. 私はもちろん旧暦の15日が満月にならない方が普通で, たまには満月になることも知っていたから, この新聞記事をみて何とも思わなかったが, どの程度すれすれに満月なのかと天文年鑑を見ると満月は18時59分であった.

旧暦の15日が満月にならないのは, 新月の時点のある日を旧暦の1日とするからである. 仮に1朔望月を29.5とし, 月齢14.75を満月とすれば, ある日の朝0.25日までに新月があればその日が1日で, 15日の晩には月齢が14.75に達する. そうでないと, 月齢が14.75になるのは, 旧暦16日になる.

ところが月の公転には遅速があり, 満月は太陽と月の黄経の差が180度の時のことだから, 月齢14.75からプラスマイナス1日くらいずれ得る.

そこで新月から満月, 満月から新月の経過時間の変化を見てみたいと思った. 2013年から2022年の天文年鑑から, 新月と満月の日時を書き出し, パソコンに入力して新月と次の満月, 満月と次の新月の経過時間を計算した.

10年間にある朔望月は, 19年7閏法を考えると, 120+3.5回だから, 日時データは247, 間隔は246あった. 最大値は15.601, 最小値は13.907, 平均値は14.767.

最後の10個は
... 14.32 15.278 14.071 15.497 13.958
15.579 14.009 15.497 14.216 15.256
である.

それを絵にしたのが下だ. 赤は新月から満月, 青は満月から新月までの経過時間である. 縦軸の単位は日.

図を見ると, 時々赤と青が同じになり, つまり新月から満月までと満月から新月までが同時間になり, その中間は一方は増えて減り, 他方が減って増える.

その理由は多分こうであろう. 月の公転軌道も楕円であり, 長軸の一方が近地点, 他方が遠地点である. 近地点では公転速度が速く, 遠地点では遲いのは常識だ.

近地点と遠地点の近くに新月と満月の場所があれば, 新月から満月も満月から新月もほぼ同時間になる. しかし, 新月と満月がその中間くらいにあると, 近地点側を通る方は経過時間が短かく, 遠地点側は長い. それがこの図の謎解きであろう.

2022年の新月と満月の日の月の地心距離を天文年鑑から調べ, 新月から満月までやその逆の経過時間がどの地心距離からどの地心距離であったかの図を描いてみた. それを下に示す. 横軸は経過時間(単位は日)で, 縦軸は地心距離(単位は万km).

これを見ると, 上の推論が正しいことが分る. 左上から右下へ来る矢印は, 遠地点から近地点までの経過で14.8日くらい掛ることで, 15.7日くらいの水平の矢印は, 中間から中間への遠地点側を通る経過, 14.0日くらいの水平の矢印は, 近地点側を通る経過である.

十五夜が満月になるというのには, こういう仕掛けがあったわけだ. その後, 国立天文台暦計算室のページを見付けた.

2022年9月8日木曜日

切頭八面体

久し振りに切頭八面体について書きたい. TAOCPにおやという記述があった.

a: 切頭八面体の基本的な置き方は, (htmlでは式が書き難いから言葉で述べると) 0,1,2,3の, 同じもののない3つ組である.

b: 体心立方格子のVolonoi領域である.

bはなるほどそうらしいと思うが, そしてそういう言い方もあるのかと思うが, aはすぐには分らなかった. その組を作ってみると,
((0 1 2) (0 1 3) (0 2 1) (0 2 3) (0 3 1) (0 3 2) 
(1 0 2) (1 0 3) (1 2 0) (1 2 3) (1 3 0) (1 3 2) 
(2 0 1) (2 0 3) (2 1 0) (2 1 3) (2 3 0) (2 3 1) 
(3 0 1) (3 0 2) (3 1 0) (3 1 2) (3 2 0) (3 2 1))
になり, たしかに24個あって, 切頭八面体の頂点の数と同じである.

それぞれの3つ組を(x, y, z)と思い, 高さ(z) 別に絵を描くと, 下の図の上段のようになる. z=0, つまり底の面に点が6個あるから, これは六角形を床に置いた図らしいと分る. 六角形にしてはいびつだが, それは直交 座標のためらしいから, x軸とy軸の角度を60度にしてもう一度描いたのが中段の図である.

なるほど六角形が現れる.

そこでx軸とz軸, y軸とz軸の角度も60度にしたグラフ用紙を作って, 上に点を 書き込むことにした. つまり, x軸y軸z軸は正四面体の3本の辺に沿っている. それが上の赤緑青の線である. 赤はz=0の平面座標で, その三角形の中心を起点とした緑のz=1の平面座標が出来, その三角形の中心を起点とした青の z=2の平面座標が出来る. 同様にしてz=3の座標が出来るが, それはz=0のと一致する.

黒線で描いたのが六角形を底にした切頭八面体である.

これを確認するため, 別の切頭八面体の絵もある. 左上Aは, 私が通常に描く切頭八面体 である. その中心を通る直交するx軸(赤), y軸(緑), z軸(青)も描いてある.

私の描画プログラムは, 頂点の座標を座標軸に平行移動したり, 座標軸に沿って回転 したり出来る. BはAの図を, z軸について45度回転したものだ. Cはそれを右下の 5,12の辺が, xyz軸の中心に来るように移動したもの. Dはそれを右下の六角形が 底に来るように, x軸について回転したものである. 最後のEは, 座標軸の中心に 切頭八面体の中心が来るように移動した.

この時, 各頂点の直交座標での位置は次の通りである. (左は頂点の番号順, 右は高さ別)
     0 (-2.121 0.408 -0.577)      9 (-1.414 0.0 1.732)	
     1 (-1.414 0.0 -1.732)	  11 (-0.707 1.225 1.732)	
     2 (-1.414 1.633 -0.577)	  16 (-0.707 -1.225 1.732)	
     3 (-0.707 1.225 -1.732)	  18 (0.707 1.225 1.732)	
     4 (-2.121 -0.408 0.577)	  20 (0.707 -1.225 1.732)	
     5 (-0.707 -1.225 -1.732)	  22 (1.414 0.0 1.732)	
     6 (-0.707 2.041 0.577)	  1 (-1.414 0.0 -1.732)	
     7 (0.707 1.225 -1.732)	  3 (-0.707 1.225 -1.732)	
     8 (-1.414 -1.633 0.577)	  5 (-0.707 -1.225 -1.732)	
     9 (-1.414 0.0 1.732)	  7 (0.707 1.225 -1.732)	
     10 (-0.707 -2.041 -0.577)	  12 (0.707 -1.225 -1.732)	
     11 (-0.707 1.225 1.732)	  14 (1.414 0.0 -1.732)	
     12 (0.707 -1.225 -1.732)	  4 (-2.121 -0.408 0.577)	
     13 (0.707 2.041 0.577)	  6 (-0.707 2.041 0.577)	
     14 (1.414 0.0 -1.732)	  8 (-1.414 -1.633 0.577)	
     15 (1.414 1.633 -0.577)	  13 (0.707 2.041 0.577)	
     16 (-0.707 -1.225 1.732)	  21 (1.414 -1.633 0.577)	
     17 (0.707 -2.041 -0.577)	  23 (2.121 -0.408 0.577)	
     18 (0.707 1.225 1.732)	  0 (-2.121 0.408 -0.577)	
     19 (2.121 0.408 -0.577)	  2 (-1.414 1.633 -0.577)	
     20 (0.707 -1.225 1.732)	  10 (-0.707 -2.041 -0.577)	
     21 (1.414 -1.633 0.577)	  15 (1.414 1.633 -0.577)	
     22 (1.414 0.0 1.732)	  17 (0.707 -2.041 -0.577)	
     23 (2.121 -0.408 0.577))	  19 (2.121 0.408 -0.577)    
各頂点の直交座標(x,y,z)を, 斜方座標(a,b,c)に変換するには, 例えば
(define (tcood x y z)
(let* ((c (/ (* z 3) (sqrt 6)))
       (b (/ (* (- y (/ (* c (sqrt 3)) 6)) 2) (sqrt 3)))
       (a (- x (/ b 2) (/ c 2))))
(list a b c)))
しかしこれで変換すると0.707や2.121が出るので, 正規化すると, 先程の24個の 直交座標は
((-3 1 -1) (-1 1 -3) (-3 3 -1) (-1 3 -3) (-3 -1 1) (1 -1 -3)
 (-3 3 1) (1 3 -3) (-1 -3 1) (-3 -1 3) (1 -3 -1) (-3 1 3)
 (3 -1 -3) (-1 3 1) (3 1 -3) (1 3 -1) (-1 -3 3) (3 -3 -1)
 (-1 1 3) (3 1 -1) (1 -3 3) (3 -3 1) (1 -1 3) (3 -1 1))
なるほど, 最初に書いた座標は0,1,2,3であったが, 今回のは. 切頭八面体の中心に座標の 中心を置いたので, -3,-1,1,3で構成されていた.

2022年9月6日火曜日

Wolframの対数表

学生の頃から気になっていたことがある. 高木貞治先生の「解析概論」のp.215の脚注に 「Wolframノ表ニハ1000以下ノ素数ノ自然対数ノ50桁ノ表ガ掲ゲラレテヰル. コノ表ハ既ニ少年がうすガ愛用シタモノデアル.」と書いてあったことだ. また, 岩波文庫の「近世数学史談」のp.65に 「Wolframの計算した10000以下の素数及び若干の特殊の数の自然対数の表が 附いていたのである.」と書いてあるのも見付けた. 1000までの素数か10000までの 素数かに違いはあるが, とにかくそういう対数表が存在していたらしい.

学生の頃にそんな数表を探すのは夢のまた夢であったが, 長生きはするもので, この歳に なってインターネットを検索していたら, 関係のあるウェブページがあった.

そのひとつは A reconstruction of the Mathematical Tables Project’s table of natural logarithmsという文献で, その図1は, Wolframが計算したものを, Schulzeが1778年(Gaussの生まれた翌年)に 出版したものの最後のページの写真. これを見て, 1000までの方が違っているのが分かった. しかも最後は10009で精度は48桁であった. また6個の素数には対数が記入 されていず, Wolframが病気で計算できなかったらしい. その図2はVegaが欠けている値を計算して 追加して1794年に出版したものの最後のページの写真がある. いずれにしても, Gaussが所持していたWolframの数表はこういうものであったらしい.

もうひとつは, New Information Concerning Isaac Wolfram's Life and Calculationsである. これによると, Isaac Wolframはオランダの砲兵の士官であった.

Wolframは何年もかけてこの数表を作ったらしいが, 現代は便利な世の中で, 自然対数も 簡単に得ることが出来る

そのひとつは, 別のWolframだが, WolframAlphaである. このページを開くと入力用窓があり, そこに「ln(2)」といれると, 2の自然対数が64桁くらい表示される. 0.6931471805599453094172321214581765680755001343602552541206800094 私もこの数表を作ってみたくなった. しかし. WolframAlphaは手動でしか使えないから, 別の方法が必要だ. あれこれ探していたら, Python3でも値が得られることが分った.
from decimal import *
getcontext().prec = 55
Decimal(2).ln() => 
Decimal('0.6931471805599453094172321214581765680755001343602552541')
これを使うと, Wolframの対数表みたいなものはすぐ作れる. 10000までの素数は 1229個あるが, 最初の20個の素数と, 10000未満の最後の19個の素数に対して 作た対数表はこんなようだ.
2から9973までの素数に対する自然対数の表は, 私の計算機にある.