2008年8月26日火曜日

San Franciscoのケーブルカー

今回はSan Franciscoで少し時間があったので, 久しぶりにケーブルカーに乗った. 前回乗ったのは, 50年前, 最初の訪米の帰路, Los AngelesからSan Francisco経由で羽田へ向かおうとしたが, JALの機材に問題があり, 1日San Franciscoに滞在することになった. 早速ケーブルカーに乗りにいった.

その後San Franciscoは数回訪れたが, ケーブルカーに乗るような時間はなかった.

さて, 以前からケーブルカーにつき, いくつかの疑問があった. ケーブルカーは線路の下を動いているケーブルを, 車両の下に出ているグリップで掴み, 車両を動かす仕掛けである. 駅ではグリップを弱め, ブレーキを掛ければ止る. 動くときはグリップを強める.

問題はPowell通りとCalifornia通りのように, 2本の路線の交差はどうなっているか, であった. しかし案の定, 一方の線では, ケーブルを一旦放し, 交差点を過ぎてからケーブルをグリップしなおすのであった. ケーブルを放すのはPowell通りの方である.



この写真で横方向がPowellで, 左の先がMarcket通りである. このPowell線の向うの線, つまり右側通行でMarcket行きの線路が, 多少下がっているのが分かる. ケーブルカーは交差点でケーブルを放し, 少し過ぎた地点で, 車体が下がってグリップがケーブルの位置になり, そこで再びケーブルをグリップしなおすのである.

手前の線には, 交差点の直前に黄色の線が引いてある. これはグリップマン, すなわち運転手にここでケーブルをリリースせよという目印である.

坂の多いところでは, ケーブルカーは水平になった交差点内で停車し客扱いをする. Powell線は, 交差点を過ぎて, 線路が下がった辺りで停車し, 乗降させるとともに, ケーブルをグリップするようだ.

もう1点は登坂の下の話だ. 水平な交差点の下を通るケーブルは, 登坂の上から引かれると, 何もしなければ持ち上がってしまう. スキーリフトの鉄塔を見ると, ケーブルは大体は鉄塔についているプーリーの上を通るが, 谷間の鉄塔だと, プーリーの下を通っている. リフトの腕は水平に出ているから, ケーブルがプーリーの上でも下でもあまり問題はないが, San Franciscoのケーブルカーは, 真上にグリップがあるから, その辺はどうなっているか.

答えはDepression Beamという仕掛けであった.



左はケーブルカーの進行方向から見た摸式図で, 黒はグリップである. 灰色はグリップされているケーブルの断面である. 赤はDepression Beamでプーリーでオレンジ色のケーブルを押さえている. ケーブルカーが遠いときは, ケーブルはオレンジ色の位置で, 上がろうとするのをプリーが押さえている.

ケーブルカーが近づくと, ケーブルは徐々に押し下げられ, プーリーから離れる. 一方ケーブルカーのグリップが近づくにつれDepression Beamを横に押しだす. 赤の点線のような位置に移動し, グリップは無事に通過出来る.

ケーブルカーが通りすぎると, プーリーは元の位置に戻り, またケーブルも上がってきて,プーリーで押さえられる.

Depression Beamが入っていると思われる部分は, 鉄板で覆われ, 保守しやすいようになっていた.

2008年8月25日月曜日

Lermerの篩機械

先日のことだが, Mountain ViewにあるComputer History Museumに行ってきた. 思い込みの深い多くの計算機に対面できた. ただ残念ながらLehmerの初代の自転車のチェーンによる篩機械はドイツに出張中とかで, 見られなかった. これについて私は以前こう書いた. (bit 1997年7月号)

『「先日のことだが, ...」計算整数論者でカリフォルニア大学バークレイ校(以下UCB)教授だったDerrick Henry Lehmer(以下Dick)は昔のエピソードでもこう語り始めるのを好んだ. 私もひとつ真似をしよう.

先日のこと, Dickは集めてきた自転車のチェーンの部品でチェーンの輪を19個作った. それぞれの輪のリンク数は67までの素数だが, 13までの素数に対する輪は小さ過ぎるので64, 27, 25, 49, 22, 26とした. これをそれぞれ同軸に固定した10枚歯のスプロケットに掛け, 回転数をカウンターで数えながら軸をモーターで回転した. 輪は零の位置(または素数の倍数の位置)にピンを立てた時, カウンターが大きな整数Nになるまで軸を回転し, 停止時にどのピンも真上になければNには67以下の素因数はないわけだ.

また探すべき数が, いろいろな素数での法がいくつかという条件さえわかれば, その位置にピンを立て, ピンと接点, リレー, モーターを組合せ, 条件を満たす数が見つかった時点で回転を停止する機構も工夫した.

軸は300rpmで回転したので, 1日に432万個(=10×300×60×24)の整数を調べることができた. だが, この篩計算機を作った目的のMersenne数, 2257-1の素数性を調べるは$1070年かかるらしい. さよう, Dickがこの篩を試作したのは, 彼がUCBの学部学生であった1926年のことである. この機械の複製はボストンのコンピュータミュージアムにあるが, 展示はしていないらしい. 』

Computer History Museumは1990年代にBostonからCaliforniaへ移動している. インターネットで探すとcomputer history museumに写真は見つかった.



どういう問題を解くか. Lehmerのような整数論者は高尚な問題を解くだろうが, 簡単な例はChinese Remainder Theoremのようなものである. つまり3で割れば1余り, 5で割れば2余り, 7で割れば3余る数はなにか.

3での剰余がp, 5での剰余がq, 7での剰余がrなら70p+21q+15r mod 105が解で, 今の70+42+45=157, 157 mod 105 = 52 となる. この程度なら篩機械はいらない.