2008年4月24日木曜日

同一直線上の3点

久野君たちの努力により, Beautiful Codeの翻訳がでた. 以前 三省堂の洋書の棚にあるのを見たことはあったが, その時はパスした.

翻訳をみると, なにしろ多くの人がそれぞれのプログラム言語で書いた自分のプログラムを(それもかなり大きい部分を)自讚しているから, 読むのが大変そうである.

短くて面白かったのは, 33章「『本』のためにプログラムを書く」であった. 要するに平面上の3点A, B, Cの座標が与えられた時, その3点が同一直線上にあるかを判定するプログラムを書くのだ.

私がやっても多分こういうアプローチになるであろうという風に話は展開していく.

まずA,Bの2点を通る直線の式を決め, 点Cがそれに乗っているかを問うもの. これは最初の2点がy軸と平行な線上にあるときの始末が面倒.

次はABを通る直線の勾配と, ACを通る直線の勾配を計算し, それらが一致するかを見るもの. 勾配が無限大になるときはnilを返すようにすると, nil同士もeqで比べればtになるので便利なようだが, 気持は悪い.

3番目はBCの距離a, CAの距離b, ABの距離cを計算し, a,b,cを大きさの順にソートし, 最大の距離が残りの2つの距離の和になるかどうかを見る. この難点はPythagorasの定理で距離を求めるのに関数sqrtを使うことだ. 誤差は避けられない.

このようにして, 最後に辿り着いたのは, 3点で構成する三角形の面積を求め, それが0なら三角形はつぶれて3点は同一直線上にあることが分かるというもの.

たしかに高校生のとき, 三角形 ABC の面積は行列式

|Ax Ay 1|
|Bx By 1|
|Cx Cy 1|

の1/2と習った. 面積が0かとうかを見るのだから, 1/2はいらない, 正負も問題にならないから, A,B,Cを反時計まわりにおくことにこだわることもない.

(Ax*By+Bx*Cy+Cx*Ay)-(Ax*Cy+Bx*Ay+Cx*By)

の計算だから誤差も何もない. これで決りだ.

今年の夏のプロシンのテーマは「プログラムの品格」のようなものだ. 本書もひとしきり話題になりそうな予感.

2008年4月14日月曜日

dancing links

前回のdancing linksの続きである.

TAOCP 4巻分冊0が4月18日に発売になるとアマゾンからメイルが来た. その分冊0は7章の最初の部分で, そこにGraeco-Latin squareの話題が登場する.

Graeco-Latin squareの作り方は, 互いにorthogonalな2つのlatin squareを用意し, それを合わせればよいのだが, あるlatin square Lからそれとorthogonalなlatin square Mの作り方として, Lからtransversalという組を探す. これは直接orthogonalなlatin squareを作るより容易であると本文に書いてある.

その続きは次のようだ.

Once the transversals are known, we're left with an exact cover problem, of 10 stages, which is much simpler than the original 90 stage problem (6). All we need to do is cover the square with ten transversals that don't intersect --- because every such set of ten is equivalent to a latin square M that is orthogonal to L.

10とか90とかの数値は, ここでは10x10のsquareを求めているからである.

しかしこれだけの説明では, よく分からなかったので, 考えた結果がこのblogの趣旨である.

大きいsquareは面倒なので, 4x4を対象とする.
例えば Lとして

L=((0 3 1 2)
(2 1 3 0)
(3 0 2 1)
(1 2 0 3))

は各行 各列に0,1,2,3が1回ずつ現れるから, latin squareになっている. これとorthogonalなlatin squareを求めるべく, Lのtransversalを探す. transversalはLの各行から1個 各列から1個 各文字から1個をとる組で,

A=((0 ) B=(( 3 ) C=(( 1 ) D=(( 2)
( 1 ) (2 ) ( 0) ( 3 )
( 2 ) ( 1) (3 ) ( 0 )
( 3)) ( 0 )) ( 2 )) (1 ))

E=((0 ) F=(( 1 ) G=(( 2) H=(( 3 )
( 3 ) (2 ) ( 1 ) ( 0)
( 1) ( 0 ) (3 ) ( 2 )
( 2 )) ( 3)) ( 0 )) (1 ))

の8個が存在する.

このうちA,B,C,Dを重ねるとちょうどLになり, またE,F,G,Hを重ねてもちょうどLになる.

定義が後回しになったが, LとMがorthogonalというのは, LとMから対応する位置の要素をとって組にすると, 同じ値の組が複数回は出来ないということである.

したがって各transversalの0,1,2,3の位置には0,0,0,0のように同じ値をおけば, orthogonalなlatin squareが得られる. つまり

A,B,C,Dから
M0=((0 1 2 3)
(1 0 3 2)
(2 3 0 1)
(3 2 1 0))

E,F,G,Hから
M1=((0 3 1 2)
(1 2 0 3)
(2 1 3 0)
(3 0 2 1))

ができる (LM)の組を作ると M0とM1のそれぞれから

((00 31 12 23) ((00 33 11 22)
(21 10 33 02) (21 12 30 03)
(32 03 20 11) (32 01 23 10)
(13 22 01 30)) (13 20 02 31))

が得られorthogonalなことが分かる.

Lからdancing linksでtransversalを得る方法, transversalを使わず, 直接orthogonalなlatin square(Mateという)を得る方法はTAOCP ex7-17参照のこと.

2008年4月9日水曜日

dancing links

KnuthのTAOCP, 7巻の分冊が出回り始めた. その最初の方にexact cover problemを解くのにdancing linksが適してると書いてある.

dancing linksについてはKnuthが楽しんで書いた論文があり, 講義のビデオも存在する. exact cover proble (日本語では「敷き詰め問題」か) は条件をならべた行列から解の候補を選び, それにより使えなくなった行や列を外し, またback trackするときは, 外した行や列をもとにもどす.

この行列はスパースなので, 上下左右に双方向リンクで実装すると, うまくいくというのがdancing linksの話の味噌である.

私としては面白そうなアルゴリズムを知ったら, さっそくコーディングして例題を走らせ, 体験によってアルゴリズムを理解, 記憶することが多い.

dancing linksについてもさっそくプログラムを書いた. googleで探すとjavaなんかで書いたプログラムも見つかるが, 自分で書くのが楽しいのでschemeで書くことにした.

Knuthの論文の最初の簡単な例題は, 直ぐにうまくいったが, 当然dancing linksを使えばうまく解けると書いてある他の例は, 結構てこずった.

8×8-2×2の60区画にペントミノのピースを置く問題である. ピースXを左上の(3,3)に置くというのに挑戦た. ぜんぜん解が出てこないのである. 当然プログラムがおかしいかといろいろ見てみたが, 合っているとしか思えない.

実は候補の列を選ぶのに, ブランチ数の少ないものを選ぶと書いてあったが, そうしなくても解が出るようにも読めたので, 残っている列の最左端から選んだのが失敗であった. あるとき思いついて, ブランチ数最小の列を選んでみたら, たちまち最初の解が出た. 超簡単な例では, 最左端でも問題なく解が得られたが, ペントミノ程度になると, ブランチ数を考慮する必要があった.

dancing linksの双方向リンクによる削除挿入は, 野下浩平君とその学生の一松宏君が8クイーン問題を解くのに考えたといわれている. しかし縦と横はすべてにクイーンを置くので, exact cover problemであるが, 斜め方向は半分くらいしか埋めないので, この辺の扱いは別になる. Knuthの例の論文をよく読むと, こういうのはgeneralized exact cover problemというので, 列にはprimaryとsecondaryを用意する. primaryの列名は双方向リンクで接続するが, secondaryの列名は自分自身で循環するリンクにすると書いてあった. そういう風にプログラムをなおすと, なるほどうまく行った.

数独にも適しているといわれるdancing linksである. 数独ではいくつかの解が与えられているので, 解を探し始める前に, 与えられた解について列や行を削除する(coverする)必要がある. 解に相当する行を探す手間が必要で, この辺はプログラムでかなり工夫が必要であった.

最後に, 上下左右に双方向リンクにしないでも, 実装できるのではないかとプログラムをしてみた. ノードはlispの対で, carに下へのリンク, cdrに右へのリンクを置き, 循環するようにリストを実装すると, たしかにこれでもうまく出来ることがわかった.