2015年2月22日日曜日

Christopher StracheyのGPM

Ackermann関数

再帰呼出しというとすぐに出てくるのがAckermann関数である.
(define (a x y)
 (cond ((= x 0) (+ y 1))
       ((= y 0) (a (- x 1) 1))
       (else (a (- x 1)
                (a x (- y 1))))))
SICPの定義は少し違う. (演習問題1.10)
(define (a x y)
 (cond ((= y 0) 0)
       ((= x 0) (* 2 y))
       ((= y 1) 2)
       (else (a (- x 1)
                (a x (- y 1))))))
SICPの著者のSussman君はもちろんこの方が正しいというが, ここでは巷間に伝わる前の定義に従う.
$def,a,<$~1,
 $def,~1,<$>~2<,
  $def,>~2<,<$a,$1-,>>~1<<;,
   $a,>>~1<<,$1-,>>~2<<;;;>;,
  $def,0,<$a,$1-,>>~1<<;,1;>;;>;,
 $def,0,<$1+,>~2<;>;;>;
$a,0,0;,$a,0,1;,$a,0,2;,$a,0,3;, => 1,2,3,4,
$a,1,0;,$a,1,1;,$a,1,2;,$a,1,3;, => 2,3,4,5,
$a,2,0;,$a,2,1;,$a,2,2;,$a,2,3;, => 3,5,7,9,
$a,3,0; => 5
1桁の世界ではこの辺までしか計算できないから, あっという間に終るのは有難い. 特にコメントすることもあるまい.

Catalan三角形

TAOCPの式7.2.1.6-(22)にCatalan数とかCatalan三角形というのがある. このブログに「入れ子のかっこ」という話を書いたが, 4組の(,)の並べ方が14通りあり, それがCatalan数Cを使いC(4)=14と表現出来るという話題だ. 三角形の方は



のような形で, Catalan数Cnは図のCnnである.

C00=1,
Cp,q=Cp(q-1)+C(p-1)q 0≤p≤q≠0の時
      =0 p<0 または p>qの時

だからSchemeでは
(define (c p q)
 (cond ((and (= p 0) (= q 0)) 1)
       ((or (< p 0) (> p q)) 0)
       (else (+ (c p (- q 1)) (c (- p 1) q)))))
GPMでは
$def,c,<$~1~2,
 $def,~1~2,<$$|,$lt,>~1<,0;,$lt,>~2<,>~1<;;,
  $def,t,0;,
  $def,f,<$+,$c,>>~1<<,$1-,>>~2<<;;,$c,$1-,>>~1<<;,>>~2<<;;>;;>;,
 $def,00,1;;>;
$c,0,0;,$c,1,1;,$c,2,2;, => 1,1,2,
$c,0,3;,$c,1,3;,$c,2,3;,$c,3,3;, => 1,3,5,5,
$c,0,4;,$c,1,4;,$c,2,4; => 1,4,9
と書ける.

論理関数

andやorはどうなるだろうか. 四則演算も自分で定義したくらいだから, 論理演算も出来るであろう. and, or, notはSchemeで書くと
(define (and x y)
 (if x y #f))
(define (or x y)
  (if x #t y))
(define (not x)
 (if x #f #t))
つまり(and x y)はxが真なら結果はyの真偽による; xが偽ならもちろん偽という定義でよい. (or x y)はxが真なら即真, 偽ならyに依存する. (not x)も見ての通り. これをGPMのif then elseで実装する. 真偽値はltと時と同様, tとfとする.
$def,&,<$~1,$def,~1,f;,$def,t,~2;;>;
$def,|,<$~1,$def,~1,t;,$def,f,~2;;>;
$def,\,<$~1,$def,f,t;,$def,t,f;;>;
マクロ名には大体の文字が使えるから, andは&, orは|, notは\を使った.
$&,f,f;,$&,f,t;,$&,t,f;,$&,t,t; => f,f,f,t
$|,f,f;,$|,f,t;,$|,t,f;,$|,t,t; => f,t,t,t
$\,f;,$\,t; => t,f
となる. これを使って多数決maj(majority)と排他的論理和xorを定義する.
$def,maj,<$|,$|,$&,~1,~2;,
  $&,~2,~3;;,$&,~3,~1;;>;
$def,xor,<$|,$&,~1,$\,~2;;,
  $&,$\,~1;,~2;;>;
$maj,f,f,f;,$maj,f,f,t;, => f,f,
$maj,f,t,t;,$maj,t,t,t; => t,t
$xor,f,f;,$xor,f,t;,$xor,t,f;,$xor,t,t; =>f,t,t,f
という次第だ. 二進の加算器が得られた気分だ.

Hilbert曲線

GPMはもともとプログラムの前処理系だったから, これを使ってプログラムの一部を発生させてみたい.

PostScriptでHilbert曲線を描いてみよう. もちろんPostScriptには再帰呼出しの機能があるから, PostScriptだけで簡潔にプログラムできるわけだが, GPMを 使うのも一興である.

まずはHilbert曲線の描き方の復習から.



左下のpは左から進んで来て, +が示すように左折する(+は反時計方向に曲り, - は時計方向に曲る), 左中央のfを左回転したf+分だけ進み, -で右折, fと進み, -で右折, 右回転したf-と進み +で左折して右へ抜ける.

左上のqの描き方も同様に出来ている.

これらp, qから中央のp'を描くのも図の通りで, +で左折, 左回転したq+, 左回転したf+, 右折, p, f, pと進み, 右折, f-, q-と進んで左折する.

q'も同様.

次に大きいp'', q''は今のp, qをp', q' に変更するだけである.

これだけ分ればSchemeで実装できる.
(define (^ x)
 (modulo (+ x 1) 4))
(define (_ x)
 (modulo (+ x 3) 4))
(define (f d)
 (display (list-ref '(
 "l 0 rlineto "
 "0 l rlineto "
 "l neg 0 rlineto " 
 "0 l neg rlineto ") d)))
(define (p n d)
 (if (> n 0)
  (begin
   (q (- n 1) (^ d)) (f (^ d))
   (p (- n 1) d) (f d)
   (p (- n 1) d) (f (_ d))
   (q (- n 1) (_ d)))))
(define (q n d)
 (if (> n 0)
  (begin
   (p (- n 1) (_ d)) (f (_ d))
   (q (- n 1) d) (f d)
   (q (- n 1) d) (f (^ d))
   (p (- n 1) (^ d)))))
関数 ^ は4を法として1を足す, _ は4を法として1を引く.

(f d)はd向きのfを引くPostScriptの命令を返す. つまりd=0なら l 0 rlineto (x 方向へl ,y 方向へ0だけ移動,) d=1なら 0 l rlineto(x 方向へ0, y 方向へl だけ移動)のようになっている. negはその前の値の符号を変える.

(p n d)は大きさnのpを描く. q+, f+ ...だったから(q (- n 1) (^ d)), 1小さいqを(^ d)向きに描き, (f (^ d)), fを(^ d)向きに描き, ...と定義する.

(q n d)も同じだ.

これをGPMにしたのが次だ.
$def,1-,<$-1,0,1,2,3,4,5,6,7,8,
  $def,-1,<~>~1;;>;
$def,^,<$1,2,3,0,$def,1,<~>~1;;>;
$def,_,<$3,0,1,2,$def,3,<~>~1;;>;
$def,f,<$~1,
 $def,0,<l 0 rlineto >;,
 $def,1,<0 l rlineto >;,
 $def,2,<l neg 0 rlineto >;,
 $def,3,<0 l neg rlineto >;;>;
$def,p,<$~1,
 $def,~1,
 <$q,$1-,>~1<;,$^,>~2<;;$f,$^,>~2<;;
  $p,$1-,>~1<;,>~2<;$f,>~2<;
  $p,$1-,>~1<;,>~2<;$f,$_,>~2<;;
  $q,$1-,>~1<;,$_,>~2<;;>;,
 $def,0,;;>;
$def,q,<$~1,
 $def,~1,
 <$p,$1-,>~1<;,$_,>~2<;;$f,$_,>~2<;;
  $q,$1-,>~1<;,>~2<;$f,>~2<;
  $q,$1-,>~1<;,>~2<;$f,$^,>~2<;;
  $p,$1-,>~1<;,$^,>~2<;;>;,
 $def,0,;;>;
/l 20 def 100 100 moveto 
$p,3,0;
stroke
大部分はマクロの定義で, 最後の方 /l 20 def 100 100 moveto はこのまま出力にコピーされる. これはPostScriptのプログラムで, 変数lの値を20に設定する; 座標100 100 に移動する; という指令だ.

次の$p,3,0;でサイズ3, 進行方向0のHilbert曲線を描く命令
0 l rlineto l 0 rlineto 
0 l neg rlineto l 0 rlineto 
l 0 rlineto 0 l rlineto 
(この後同様な28行省略)
0 l neg rlineto 
が出力され, 最後に strokeの命令がコピーされる.

出来上がった図は



上に2つ並ぶ凹のような形に足のついたものの辺の数は15で, それが全部で4個あり, 左と上と右のそれらを繋ぐ辺が3こあるから, この図全体の辺は63個.

上の出力は28行の省略があるから全体で32行. 最後の行以外はrlinetoが2個ずつあるからrlineto, つまり辺の数は63個あるわけだ.

GPMの例題はまだ続く.

2015年2月21日土曜日

HP-16Cのプログラム技法

1980年代にHewlett Packardが出荷していたHP-16Cという電卓の名器があった. 下のような面構えである.



私は30有余年愛用していて, 今も毎日持ち歩いているが, 十進法の計算はiPhoneを使うことが多くなった. HP-16Cの最大の特徴はRPN, すなわちReverse Polish Notationで, (1+2)*(3+4)を1,2+3,4+*の順に入力する. これは大変理にかなっていて, 私が以前実装したHappy Hacking Calculatorも勿論そうなっている. ただHP-16Cはスタックが4段で, 手前から(HPのマニュアルでは下から)x,y,z,tしかない. つまり上の例ではまず1がxに入り, カンマで示したENTERキーでその1がyへ移動. 2がxに入り, +で和の3がxに出来る. 3を入力すると, 和の3がyへ移動. xが新入力の3になり, ENTERでyの3がzに移動, xの3がyに移動, 4の入力でxに4が入り, +でxが7. yが3になり, *でxに21が出来る.

もう1つの特徴が, 数値の表示が二進, 八進, 十進, 十六進に切り替わることだ. 内部表現はいうまでもなく二進である.

iPhoneで真似が出来ないのがHP-16Cのプログラム機能だ. 現今の標準から見れば計算速度も相当遲いし記憶容量も小さいので大したことは出来ないが, こういうプログラムもあるということは, ソフトウェア歴史上無視できない.

今回のブログでは, HP-16Cのプログラムのスタイルを話したい.

HP-16Cには203バイトのメモリーが塔載されている. 0番地の方からデータの記憶場所, 反対側からプログラムの記憶場所として使う. プログラムの方は1ステップが1バイトだが, データの方は1ビットから64ビットまで長さが任意で, プログラムに取られた場所以外を様々なサイズでデータ用の番地を取っていく. これをレジスタという. 私には計算に使うx, yなどがレジスタという気分なのだが, そちらはスタックというのだろう. この可変長のレジスタがどういう実装なのか私には分らない.

HP-16CのプログラミングはKeystroke Programmingといって, 通常手で計算するキーの押し方の順を記憶するもでのある. この他にラベルを置くこと, ラベルへジャンプすること, 条件判断で1ステップ飛ばすことなどが出来る.

またIで表記するインデックスレジスタが1個ある. (I)と表記するとIの内容という意味である.

以下で扱うHP-16Cのプログラムは, 素因数分解のプログラムで使う予定の疑似素数発生噐である. つまり2,3,5,7,11,13,...を次々を作るのだが, 素数だけを作るには大量に記憶するか, 毎回素数性を検査するとか, 実用にならないので, 途中から先は, たまに合成数があっても苦しうないというものだ.

2,3,5で割れない数は30個で循環して現れる. 0から29までの数を書き, 2,3,5で割れるものは1, 割れないものは0として, 縦に0が揃うものを*で表わし, その間隔を 調べると以下のようになる.
2 101010101010101010101010101010
3 100100100100100100100100100100
5 100001000010000100001000010000
&  *     *   * *   * *   *     *
   2     6   4 2   4 2   4     6
また, 始めの方の素数の間隔は
2,3,5,7,11,13,17,19,23,29,31,37,41,43,
 1 2 2 4  2  4  2  4  6  2  6  4  2
だから, 2に1,2,2と足して3,5,7が得られた後は, 上の循環数列の最初の4からを順に足す. こうするとそのうち49が現れるが驚かない.

ではプログラムに移ろう. 循環の最後を調べるのを容易にするには, インデックスレジスタIを使う. 1足したり引いたりした結果が0になると, 次のステップを 飛ばす機能があるから, レジスタには次のように逆順に差分を入れておく. インデックスは最初11に設定し, DSZ(decrement skip if zero)で1ずつ減らし, 0になったら8に再設定する.

0, 1, 2, 3, 4, 5, 6, 7, 8, 9, 10, 11
   6, 2, 6, 4, 2, 4, 2, 4, 2,  2,  1
プログラムは不思議なことに001番地から始まる.
001 43.22.00 LBL 0
002 43.34    PSE
003 54.31    RCL (I)
004 40       +
005 43.23    DSZ
006 22.00    GTO 0
007 34       x<>y
008 44.32    STO I
009 34       x<>y
010 22.00    GTO 0
001行目はLBL 0(ラベル 0)だ. つまりここに0のラベルをつける. 002行目はPSE(pause)で一旦小休止してxの内容をしめす. すぐに走りだすから, 目を凝らす必要がある. 003行目 RCL(I) インデックスレジスタの内容をxにもってくる, xにあった疑似素数はyに送られている. 004行目 +. これで前の疑似素数に差分を足す. 結果はxに出来ている. 005行目 DSZ. インデックスレジスタから1を引き, 結果が0なら007行目へ飛ぶ. 006行目GTO 0. ラベル0へジャンプ. 007行目. xに出来ている疑似素数とyにある数を交換する. 008行目 STO I. xの値をインデックスレジスタへ入れる. 009行目. x<->y. 010行目GTO 0. 0へ飛ぶ. という風に走る.

従って,
11をインデックスレジスタに入れる.
8をxに入れる. ENTERしてyに送る.
最初の疑似素数2をxにいれる.
GTO 0でスタートへ.
R/Sで起動する.

HP-16Cが手元に無ければシミュレータが使える. 例えばここにある.

これらのキーにポインタを合せてクリックすると入力できる. たとえば最初の例. 1,2+3,4+*だが, 1を押し, 中央のENTERを押し, 2を押し, +を押し, 3を押し, ENTERを押し, +, *を押す.

HEXを押せば15に, OCTを押せば25に, BINを押せば10101に表示が変る. その時の基数を窓の右端にh,d,o,bで表示する.

各キーには上にオレンジ色, 下に青色で機能が示されている. その方を使うには, その前に左下のfかgを押しておく.

というわけで疑似素数発生プログラムをやってみよう.

まず差分を入れる. レジスタの長さは8ビットでよさそうだからDECとしてから8を押しfを押し, オレンジ色のWSIZEを押す.

HP-16Cではキーの位置を2桁(行と列)の十進数で表わす. 行番号は上から1,2,3,4. 列番号は左から1,2,3,...,9,0である. fの位置は42, WSIZEの位置は44だ. (2行にわたるENTERは36)

レジスタ1に6を入れるには6を押してxに置き, STO 1と押す. こうしてレジスタ9に2まで入れたら, 次に2と1を10と11に入れるためにHEXにする. 2 STO A 1 STO Bで差分の入力は終わる

プログラムを入力するには, gと31のキー, P/Rを押す. そうすると窓に000が表示される. いかにも000に入りそうだが, 表示の次の位置の入るので要注意だ. プログラム入力モードになっているので, 窓にPRGMの表示がある.

LBL 0をいれる. 窓には 001 43.22.00 と出る. 001番地にキー位置43 (つまりg), 22 (つまりLBL), 00 (これはキー位置ではなく0)が格納されたことが分かる.

このようにして上のプログラムリストの右端の部分を次々と入力する. それが済んだら, 入力モードのままで, GTO . 001と入力すると001番地の命令をみることができる. 以下続く番地の内容を見るにはSSTを押す. こうしてプログラムを確認できる.

プログラムを走らせるには, P/Rを押して入力モードから抜ける. つまり計算モードにする. DECであるのを確認し, 11 STO I としてインデックスレジスタを11に初期設定する. 次に8をENTERし, 2をxに入れて, GTO 0としR/Sを押すとプログラムが走りだす.

各々方はうまく走らせることが出来たであろうか. 私の場合, HP-16Cの実機ではうまく行くが, 件のシミュレータでは, R/Sで停止しない. ONを押して電源を切ると止まってくれた.

HP-16Cのプログラムはかようなものである.

2015年2月8日日曜日

Christopher StracheyのGPM

GPMの続きだ.

二進化

例えば3を11, 6を110, 9を1001へのように十進数dを二進数bに変換したいとする.

d % 2の左に⌊d/2⌋の二進化したもを置けばよいが, 除算も剰余もなければ2を繰り返し引くしかない. とりあえずSchemeで書くと
(define (b x y)
 (if (< x 2)
  (if (= y 0) (list x)
   (append (b y 0) (list x)))
  (b (- x 2) (+ y 1))))
というわけで, GPMにすると
$def,b,<$$lt,~1,2;,
 $def,t,<$>~2<,
  $def,>~2<,<$b,>>~2<<,0;>>~1<;,
  $def,0,>~1<;;>;,
 $def,f,
  <$b,$1-,$1-,>~1<;;,$1+,>~2<;;>;;>;
$b,0,0;,$b,1,0;,$b,2,0;,$b,3,0;,$b,4,0;, => 0,1,10,11,100,
$b,5,0;,$b,6,0;,$b,7,0;,$b,8,0;,$b,9,0; 
=> 101,110,111,1000,1001

二項係数

Pascal三角形を思うえば, Cn,mは両端にある時, つまりm=0かm=nの時は1, それ以外は一段上の左(Cn-1,m)と右(Cn-1,m-1)の和 にすればよい.
$def,b,<$~2,
 $def,~2,<$+,$b,$1-,>~1<;,>~2<;,
  $b,$1-,>~1<;,$1-,>~2<;;;>;,
 $def,0,1;,$def,~1,1;;>;
$def,binom,<$bb,0,
 $def,bb,<$~1,
  $def,~1,<$b,>>~1<<,>~1<;,
  $bb,$1+,>~1<;;>;,
  $def,>~1<,1;;>;;>;
$b,4,0;,$b,4,1;,$b,4,2;,$b,4,3;,$b,4,4; => 1,4,6,4,1
$binom,3; => 1,3,3,1
上のbが二項係数で, $~2でmの値を見る. 下の方$def,0,1;はm=0の時, $def,~1,1;はm=nの時の値を返す. $def,~2, がその他の場合を計算する.

binomはPascal三角形のn段目を計算するもので, bbでmを0からnまで回している.

素数テスト

基本演算で定義した剰余を利用する. nの素数性はxを2から順に増やしながらnをxで割り剰余が0なら偽, x=nになったら真とする.
(define (isprime? n)
 (define (p x)
  (cond ((= x n) #t)
        ((= (modulo n x) 0) #f)
        (else (p (1+ x)))))
 (p 2))
従って, isprime?をp?と書くと
$def,p?,<$p,2,
 $def,p,<$~1,
  $def,~1,<$$r,>>~1<<,>~1<;,
   $def,$r,>>~1<<,>~1<;,
    <$p,$1+,>>~1<<;;>;,
   $def,0,f;;>;,
  $def,>~1<,t;;>;;>;
$p?,2;,$p?,3;,$p?,4;,$p?,5;, => t,t,f,t,
$p?,6;,$p?,7;,$p?,8;,$p?,9; => f,t,f,f
p?の定義はまず$p,2,と(p 2)を実行し, すぐにpの定義が続く. $def,p,<$~1, の~1はSchemeのプログラムのxである. その次の行の$def,~1,はelseの部分. 一番下の 行の$def,$gt;~1<<,の~1はn, すなわちx=nならtという定義がこの行だ.

else部分に戻ると$$r,>>~1<<,>~1<,;,とあるが, ここがnをxで割った剰余を計算するところで, >>~1<<がn, >~1<がxである. その剰余でマクロ呼出しし, 下の方の$def,0,f;が割り切れた場合は偽と定義する. elseの定義は$def,の後でもう一度剰余を計算する. やることは$p,$1+,x;である.

tarai関数

竹内郁雄君の発案したtarai関数はGPMでやってみるには都合がよい. tarai関数の定義は
(define (tarai x y z)
  (if (<= x y) y
  (tarai (tarai (- x 1) y z)
         (tarai (- y 1) z x)
         (tarai (- z 1) x y))))
で, (trai 4 2 0) とかやってみると, 盥まわしの様子が分かる. しかしz=0なので早速-1が現れて問題となる. $1-,0;は実行出来て-1になる. 基本関数のltの 引数の下が-1まで使えるようになっているのは, ここで使いたかったからである.

次は(<= x y). 基本関数にあったのはleではなく, ltであったが, もちろん(< y x)の形で使い, then部分とelse部分を交換して書いておく.

従ってtarai関数は
$def,tarai,<$$lt,~2,~1;,
 $def,f,~2;,
 $def,t,<$tarai,
  $tarai,$1-,>~1<;,>~2<,>~3<;,
  $tarai,$1-,>~2<;,>~3<,>~1<;,
  $tarai,$1-,>~3<;,>~1<,>~2<;;>;;>;
$tarai,4,3,2; => 4
$tarai,4,2,0; => 4
この辺でGPMの空白改行問題を説明しなければならない. StracheyのGPMの論文には, マクロ呼出しは評価の文字列に置き換わるがそれ以外は入力がそのまま出力されると書いてある. アセンブリ言語の前処理用としてはその通りであるが, tarai関数のマクロ定義をこのように整形しておくと実はうまく走らないのである.

(tarai 4 3 2)の実行され方を見ると, (<= 4 3) は #fなので(tarai (- 4 1) 3 2), (tarai (- 3 1) 2 4), (tarai (- 2 1) 4 3) つまり(tarai 3 3 2), (tarai 2 2 4), (tarai 1 4 3)をまず計算する. この3個はどれも(<= x y)なので, それぞれ3, 2, 4であり, 次に(tarai 3 2 4)を計算しなければならない.

これも(<= 3 2)ではないので, (tarai 2 2 4), (tarai 1 4 3), (tarai 3 3 2)を計算し, これらは直接終わるので(tarai 2 4 3)の計算に移り, (<= 2 4)だから4となるわけだ.

問題は
$tarai,
 3,
 2,
 4;
になった時に改行や空白が邪魔になることである. このtaraiの第1引数は`改行空白3', 第2引数は`改行空白2', 第3引数は`改行空白4'であり, これらが$1-に渡されてしまう.

そういう次第で, GPMの処理系では改行や空白は無視するようにしてあるが, この後で出て来る例題では改行や空白をそのまま使いたいものもあって, その辺は どう対処するのがよいか疑問である.

BCPLを設計したMartin RichardsはBGPMというGPM処理系を使っているそうだが, そのBGPMではバッククォート(`)をエスケープに使い, バッククォートから後その行の最後までと次の行から空白を無視する仕様になっているとそうだ.

2015年2月2日月曜日

Christopher StracheyのGPM

前回はHanoiの塔まで説明した. また続きのマクロを示す.

Fibonacci数

GPMで遊ぶのに適している例題の一つがFibonacci数である.

(define (fib n)
 (cond ((= n 0) 0)
       ((= n 1) 1)
       (else (+
        (fib (- n 1))
        (fib (- n 2))))))
とりあえずGPM風にすると
$def,fib,<$n,
 $def,n,<$+,
  $fib,$1-,n;;,
  $fib,$1-,$1-,n;;;;>;
 $def,1,1;,
 $def,0,0;;>;
+のマクロは基本演算で定義した.

nはもちろん~1にする. <,>が2重に使われているが, 内側のクォートの内部では ~n は>~n< にする.

従って
$def,fib,<$~1,
 $def,~1,<$+,
  $fib,$1-,>~1<;;,
  $fib,$1-,$1-,>~1<;;;;>;
 $def,1,1;,
 $def,0,0;;>;
やってみると
$fib,0; => 0
$fib,1; => 1
$fib,2; => 1
$fib,6; => 8

階乗

次は階乗. マクロ名に!が使えて嬉しい. *は基本演算参照
$def,!,<$~1,
 $def,~1,<$*,>~1<,$!,$1-,>~1<;;;>;,
 $def,0,1;;>;
と簡単だ. 実行例は
$!,0; => 1
$!,1; => 1
$!,2; => 2
$!,3; => 6

中央値

英語ではmedian. TAOCPの7.1.1に登場する. 奇数個の値をソートしてa0,a1,...,a2nが得られた時のanを値とする.

<1,0,4,2,3>=2だ. 奇数個の値がfalseとtrueだけとし, false<trueとした時, 中央値は多数決になる. <false,false,true>=false,<true,false,true>=true. 中央値は多数決を一般化したものである.

ここでは3個の値の中央値を見つける.
(define (med a b c)
 (if (< b a)
  (if (< c a)
   (if (< c b) b c)
   a)
  (if (< c b)
   (if (< c a) a c)
   b)))
このGPM版は
$def,med,<$$lt,~2,~1;,
  $def,t,$$lt,~3,~1;,$def,t,$$lt,~3,~2;,$def,t,~3~2~1;,
                                        $def,f,~2~3~1;;;,
                     $def,f,~2~1~3;;;,
  $def,f,$$lt,~3,~2;,$def,t,$$lt,~3,~1;,$def,t,~3~1~2;,
                                        $def,f,~1~3~2;;;,
                     $def,f,~1~2~3;;;;>;
実行すると
$med,0,0,0;,$med,0,0,1;,$med,0,0,2;,$med,0,1,0;,$med,0,1,1;,
$med,0,1,2;,$med,0,2,0;,$med,0,2,1;,$med,0,2,2;,$med,1,0,0;,
$med,1,0,1;,$med,1,0,2;,$med,1,1,0;,$med,1,1,1;,$med,1,1,2;,
$med,1,2,0;,$med,1,2,1;,$med,1,2,2;,$med,2,0,0;,$med,2,0,1;,
$med,2,0,2;,$med,2,1,0;,$med,2,1,1;,$med,2,1,2;,$med,2,2,0;,
$med,2,2,1;,$med,2,2,2;
=>
0,0,0,
0,1,1,
0,1,2,
0,1,1,
1,1,1,
1,1,2,
0,1,2,
1,1,2,
2,2,2

GCD

Euclidの互除法が有名だが, 9までの数を扱うこのGPMの世界では引き算で計算できる.
(define (gcd a b)
 (cond ((= a b) a)
       ((< a b)
        (gcd a (- b a)))
       ((> a b)
        (gcd (- a b) b))))
GPMに書き直す.
$def,gcd,<$~2,
 $def,~2,
  <$$lt,>~1<,>~2<;,
  $def,f,
   <$gcd,$-,>>~1<<,>>~2<<;,>>~2<<;>;,
  $def,t,
   <$gcd,>>~1<<,$-,>>~2<<,>>~1<<;;>;;>;,
 $def,~1,~1;;>;
$gcd,2,4;,$gcd,5,3;,$gcd,6,3; => 2,1,3

この辺までは簡単の単だ.