2009年2月23日月曜日

多面体描画道楽

PostScriptのすごいのは, 座標の拡大縮小, 移動, 回転などをやってくれることである. 別のいい方ではaffine変換をしてくれる. 例えば下の図で, 左上は縦横等間隔に平行線を引いたものである. 右上はひしゃげた形になっているが, 等間隔の平行線に違いはない.

PostScript的な表記では, 左の図のp(x,y)は右ではp'(x',y')に移動していて,
x'=ax+cy+tx
y'=bx+dy+ty
となっていて, 今の場合, パラメータはそれぞれ
a=1.2, b=0.5, c=0.3, d=0.8, tx=ty=0
である. (tx=0だから, 2つの図は重なる筈だが, 見えにくいのでずらしてある.)

左下の正五角形を同じように変換したのが, 右下のである. こういう変換は文字フォントについても出来て, 少し前までの国土地理院の地形図は, 山の名は右肩あがりの文字, 川や湖, 海の名は上端を左にずらした文字(イタリックと逆)で表示してあった. 次の箱根山と芦ノ湖がその例だ.

さて, 改めて考えてみると, 正十二面体の各面の投影された五角形は, 真正面から見た(つまり通常の)正五角形を適当にaffine変換したものであった. だから各面の変換パラメータ, a, b, c, d, tx, tyが決れば, その環境で単に正五角形を書けばよい筈である.

x方向についてa, c, tx, y方向についてb, d, tyを決めたいから, 直線上にはない3つの点があればよい. 前回のA面について考えれば, 頂点0, 2, 4の真正面から見たx, y座標(3次元でいえばy, z座標)
0=(-l0, 0), 2=(0,l2), 4=(l0,0)
であったから, これがそれぞれ(x0,y0), (x2,y2), (x4,y4)に移動したとすると,
x0=a.(-l0)+c.0+tx, x2=a.0+c.l2+tx, x4=a.l0+c.0+tx
y0=b.(-l0)+d.0+ty, y2=b.0+d.l2+ty, yr=a.l0+d.0+ty
従って
tx=(x0+x4)/2, a=(x4-tx)/l0, c=(x2-tx)/l2,
ty=(y0+y4)/2, b=(y4-ty)/l0, d=(y2-ty)/l2
と得られる.
各面についてこれらのパラメータを計算すると, PostScript風には
gsave
[a b c d tx ty] concat
l0 neg 0 moveto l1 neg l1 lineto 0 l2 lineto l1 l1 lineto l0 0 lineto closepath
stroke
grestore
で描けてしまう. 分かってみるとなーんだということになる.

前回の最初の図の各面にあるA, B, C,...など面の名は, 実はこうして描いたものであった. (だから見えない面の名は裏返しになっていた.)

これまでは5つの頂点すべてを変換していたが, この方式では3つだけでよい. しかし, 正多面体では正三角形の面のものが多いから, これでは得にはならず, 正多面体描画道楽で利点があるのは正十二面体(と正六面体)だけであるが, こういうことを考えておけばまた役立つこともあろう.

2009年2月20日金曜日

多面体描画道楽

正多面体の図を何度も書いているうちに, 結構上達してきた. 今回は正十二面体を例に, 私流の描き方を説明したい.


ここに示すのが正十二面体である. 赤がx軸, 緑がy軸, 青がz軸である. 基本の面として正五角形の頂点に0,1,...,4と番号のある面(A)をとる.

以前のブログ(2008年9月19日)にあった正五角形は, 2と3でこの基本面に接している右上の面(E)である.

とりあえず正五角形の対角線の長さを思い出してみる.

1辺ABの長さを1とする. 対角線ACを計算したい. ニ等辺三角形だから∠BAC=∠ACB=∠CBD=αである. ∠BDAは三角形の外角だから2αである. これは内側の小さい正五角形の外角でもあるから, 72度であり, 従ってαは36度である. ∠ABCは正五角形の内角だから108度で, ∠CBD=36度だから, ∠DBAは72度 =∠BDA ∴△ABDは2等辺三角形であった. 従ってAD=1. △ABCは△CDBと相似だから CDの長さをaとすると, (a+1)/1=1/a 従ってa=(√5-1)/2, 対角線の長さはa+1=(√5+1)/2≒1.6180つまり黄金比である.

これがわかれば正十二面体のAの面の各頂点のx,y,z座標が決る.
頂点0と頂点4の間の辺の長さを2とすると,
頂点0の座標:(?,-1,0) (x座標は後で決める)
頂点4の座標:(?,1,0)
頂点2の座標:(1,0,?)となる.
次に頂点3のx座標はE面の対角線なので, (√5+1)/2. y座標はA面の対角線なので, (√5+1)/2. z座標はI面の対角線なので, (√5+1)/2.
つまり
頂点1の座標:((√5+1)/2,-(√5+1)/2,(√5+1)/2)
頂点3の座標:((√5+1)/2,(√5+1)/2,(√5+1)/2)
となる.
ところで正多面体は球に内接するから, 中心から頂点3までの長さと頂点4までの長さは等しい. 従って頂点4のx座標をxとすると
x2+12+02=3*(√5+1)/2)2
従ってx2=(6√5+18)/4-1=(6√5+14)/4. x=(√5+3)/2.

座標に使う長さを l0=(√5+3)/2, l1=(√5+1)/2, l2=1とすると,
A面の頂点の座標は, 頂点を面の外側から見て時計回りに
(list (list l0 (- l2) 0) (list l1 (- l1) l1) (list l2 0 l0) (list l1 l1 l1) (list l0 l2 0))
である. 回り方を決めるのは, 隠面消去のために各面の法線を計算するから .

残りの11の面は, 対称性を考えればx, y, z軸まわりの直角の回転, yz, zx, xy面に対する反転で得られる. すなわち
B面はA面のxy面に対する反転 C面はA面のyz面に対する反転
D面はC面のxy面に対する反転 E面はA面をx軸まわりの回転のy軸まわりの回転
F面はE面のzx面に対する反転 G面はE面のxy面に対する反転
H面はG面のzx面に対する反転 I面はE面のy軸まわりの回転のz軸まわりの回転
J面はI面のyz面に対する反転 K面はI面のzx面に対する反転
L面はK面のyz面に対する反転
である. 反転の場合は頂点の時計回り順を維持すべく, リストを逆順にする.

これですべての面の頂点の座標が揃った.
上の図は正面から見た図を, z軸まわりに15度回転し, さらにy軸まわりに-15度回転してから, 正面(x軸方向)から見た図である. 前のブログの記述の「左に寄せる角度をθ, 手前に引く角度をφとする」との対比では, θはz軸まわりの回転角, -φがy軸まわりの回転角である.

すべての座標を上述のように回転し, x軸方向から見た絵を描くには, y座標を2次元画面のx座標に, z座標を2次元画面のy座標にするだけでよい.

隠面消去も簡単である. すべての面の法線方向を求める.
それには頂点リストの0番-1番, 2番-1番で, 1番から出た0番方向と, 2番方向のベクトルが得られ, この外積をとると各面の法線方向が得られる. そのx成分が正ならこちら向きの面だし, 負ならあちら向きの面である.
すべての面をこうしてx成分の負のものと, 正のものに分け, あちら向きの面を灰色の線で描画した後, こちら向きの面を黒で描画した.

いい忘れたが, 今回の計算はすべてSchemeで行い, 最後にPostscriptのファイルを出力した. 座標軸や面の文字は, こうして出来たPostscriptのファイルに追加したものである.

2009年2月13日金曜日

ヴァレンタインデイ

節分がすんだと思ったらもうヴァレンタインデイだ. 皆さんはチョコレートを連想するだろうが, 私の場合はShakespeareの戯曲のHamletにあるOpheliaの歌である.

4幕5場ですでに正気を失っているOpheliaが歌う. 「明日はヴァレンタイン」と. とりあえずは明日がヴァレンタインデイから連想したのだが, もう少し続ける.

To-morrow is Saint Valentine's day,
All in the morning betime,
And I a maid at your window,
To be your Valentine.
Then up he rose, and donn'd his clothes,
And dupp'd the chamber-door;
Let in the maid, that out a maid
Never departed more.

小田島訳はこうだ.

ヴァレンタインのお祭の日は
  朝早くからいそいそと,
恋しい人の窓辺に立って
  乙女の胸をときめかす.
恋しい人は部屋の戸開けて
  迎え入れるの手をとって
入った娘が出てくるときは
  もはや娘じゃないからだ.

逍遥訳はこうだ.

あすは十四日ワ"レンタインさまよ,
門(かど)へ行こぞや, 引明方に,
ぬしのお方はなろずもの.
それと見るより門の戸あけて,
ついと手を取り引入れられたりゃ
純潔(うぶ)な處女(むすめ)ぢゃ戻られぬ.

この2人の訳にはいつも時代の変遷を感じる.

このあたりのOpheliaのセリフはひたすら悲しい. そして5幕7場の王妃のセリフも嘆きに溢れている. 有名なMillaisのOpheliaの絵はこのセリフに基づいている.

ところでOpheliaの「valentine」をどうやって探すかだ. 私はアメリカ滞在中に求めた, 1600ページもの「The Harvard Concordance to Shakespeare」を持っているので, 検索はいつでも出来る. Concordanceはコンピュータ屋の言葉ではKWICインデックスである. これで「valentine」を引くと, Hamletには上記の2語しか見つからない. 驚くことに「valentine」が50回以上現れる戯曲があった. Two Gentlemen of Veronaである. この2人の紳士のうちの1人がValentine君であった.

ブラウザがあれば, 検索は簡単だ. http://shakespeare.mit.edu/へ行くとcommediy(喜劇), history(史劇), tragedy(悲劇)の目次があり, 例えばそこで悲劇のHamletへ行く. 左上にEntire play in one pageというリンクがあり, それで全体を取り込み, 検索するのである.

このURLを忘れたら, complete works of shakespeareでgoogleサーチすればよい.

2009年2月3日火曜日

節分

春節(旧正月)がすんで1週間たったので, 夜外へ出てみたら, 上弦の月が霞んでいた.
「月も朧に白魚の篝も霞む春の空」
になったのかも知れない.
「ほんに今宵は節分か」
は白波五人男のせりふ.

NHKのテレビは変なことをいっていた. 今日は節分, だから明日は立春と.
逆ですよね.

夜, 豆まきをした. いつも私の役目だ.

私の子供のころ, 母親がやっていたことを未だに私はやっている.
家族それぞれの年齢の数だけの大豆を集めて半紙に包む.
昔はそれに1銭硬貨もいれてお捻りにする. (今は1円)

年の数が多いと, 10の桁の数と1の桁の数を足したものにする. それでも多いときは? もう一度このようにする. たとえば78歳なら78粒は多いので7+8=15とする. それでも多ければ1+5=6とする. 繰り返すのはいやなので閉じた式にする. つまり(modulo n 9)となる.
9歳の子供は9粒だから, (+ (modulo (+ n 8) 9) 1)というべきである. でも今度は0歳が9粒になってしまった. はて? それはさておき...

それで家族一人一人の背をさすり, 外へ出て四つ角へ棄ててくる.
後は後を振返らずに家に帰る.

それで外へ出, 月を見たのであった.

そういう伝統はいつまで続くかなぁ.