微分解析機ではバスシャフト, クロスシャフトに積分機, トルクアンプ, 入力卓, 出力卓, 加算器などが接続してある. しかし佐々木本によると, 「ガタ補正装置」というものもあったらしい.
これは一体なにかと思う一方, 理科大の微分解析機になにやら不思議な機器がついていた. Crank本で判明したのだが, その不思議なものこそガタ補正装置であった. 英語では「フロントラッシュ」という.
微分解析機の最大の泣き所はトルクアンプでのバックラッシュであったらしい.
バックラッシュとは, 通常の平歯車ではこう起きる. 次の図のように2つの平歯車MとNがかみ合っていて, Mが駆動する側, Nが駆動される側とする.
Mが右回転していると, MとNのかみ合う部分では, Mの歯の下がNの歯を上から押し下げてNを左回転させる. Mの歯の下とNの歯の上は常に接しているから連続的に駆動できる.
Mが停止し逆回転を始めると, 今度はMの歯の上がNの歯の下を押し上げることになるが, こちらには隙間があって, MがNに当たるまでNは逆回転を始めずに停止している. 従ってMとNの回転角の関係を図に描くと, 回転が逆になると違う関係になる. これがバックラッシュである.
トルクアンプでも逆回転が始まると, 逆側のドラムの回りの糸が締まるまでは出力が始まらず, しばらく不感時間があってバックラッシュ現象が生じる.
このバックラッシュを出来るだけ早くキャンセルしようとするのがフロントラッシュである. 名前からして結構ふざけているがなかなかの機構である.
次がフロントラッシュのメカの分解図である. Cambridge大学のWilkes先生のところで撮った写真だと断りがあった.
フロントラッシュはバスシャフトの間に入れ, バスシャフトの回転数を加速する機能を持つ.
右が入力シャフトで, その左に両隣のシャフトへの引掛りをもったベルトに挟まれたドラムがある. ベルトはドラムが勝手に回らないよう軽くブレーキをかけている. ドラムに入力シャフトが通っているが, 入力シャフトとドラムはシャフトの回りではフリーになっている.
ドラムの左は遊星歯車. そして左端に内歯車とそれと一体になった出力シャフトがある.
ドラムには右方にペグが2本. この挿入位置は円周上に点在し, 場所は変更し調整出来る. 一方入力シャフトにはペグにぶつかるピンがある.
通常は入力シャフトがピンでドラムのペグを押し, 同時回転し, 従って遊星歯車も同時回転し, 入力シャフトと出力シャフトは同時回転する. しかし入力シャフトが逆転すると, ピンがペグから離れ, もう一方のペグに当るまで, ドラムはバンドの摩擦で停止する.
ドラムと入力シャフトの回転速度に差があると, 遊星歯車の出力は加速され, 出力シャフトも少し早く回り, やがてピンがもう一方のペグに当たって通常の回転数に戻るという仕掛けである.
この辺の事情を図にしたのが下だ.
左の図で横軸が入力, 縦軸が出力である. DからAは入力と出力が一体となってある方向に回転しているところとする. Aで入力が逆転し始めるても, 出力はすぐには追従しないからBまでは出力は動かぬ. BからCで出力は入力にすこし遅れて逆転する.
右の図はフロントラッシュの場合で, 横軸は入力シャフトのまだ先にある真の回転角である. Bまでは逆転直後で入力軸が遅れているところ. やがて遊星歯車が回転して出力は真の回転角に追いつく様子を示す. 逆側のC, Dでも事情は同じである.
なんとしてもバックラッシュを防ごうとう努力の後が見えるではないか.
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