2010年10月24日日曜日

Maxwellの面積計

またまた面積計の話で恐縮だ.

RutherfordJournal
には, こういう図



も出ている. 前回(10月15日)のブログにあった図と, 似ているがいささか異なる. これもMaxwellのもう1つの面積計なのだ. その理由はご賢察の通りであるが, 老婆心ながら説明しよう.

前回の図では, 水平軸ABを持つ半球が, 車輪Hの回転と共に回転した. また伸縮棒MSにより, 全球と半球を結ぶ直線と水平軸のなす角が変化した.

今回は, 垂直な回転軸に半球がついており, 図形の周囲を追跡する針の, 回転軸の円周方向の移動に応じて, 半球と全球の仕掛けも回転する. また, 針の, 半径方向の移動は, 前回の図のOMの移動同様に, 回転軸と, 半球と全球を結ぶ直線のなす角を変える.

そうと分かると, 前回は車輪の回転がdxで, 半球と全球の角度がyであったように, 円周方向がdθ, 半径方向がrの極座標で, r dθの極座標での積分をすることになる.

前回のMSは伸縮出来る棒であった. 今回も針の先と, 半球の中心と, 全球の中心が1直線になるような, 伸縮棒でもよいわけだが, 今回は曲線部分を持つ部品が回転し, バネにより, それに接触している半球と全球を結ぶ棒の延長が針先になるように工夫したカム機構になっているのである.

Maxwellは理論的な面にしか関心がなかったらしく, ものは作らず, こういうメカを考えて楽しんでいたらしい.

2010年10月22日金曜日

Maxwellの面積計

面積計の歴史をウェブで探すといろいろ見つかる. それを読むと, 円錐(cone)がどうのこうのと書いてあったりする. 面積計の基本知識として, このブログでは円錐の機能を説明しよう.



この図は, Johannes Oppikoferの面積計といわれるものである. Maxwellのと違い, 台枠は固定されていて, 手前にある針を前後に動かすと, その支持腕が伸び縮みし, また腕を左右に動かすと, 支持腕とその右にごちゃごちゃ見える機構が一緒に左右に動く.

ごちゃごちゃの機構の中央に横倒しになった円錐が見える. 円錐は, 機構が左右に動くと, その幅に従った角度だけ水平の軸の周りに回転する. また円錐の上方に, 立っている文字盤があり, その下に小さい円板があって, 円錐に接している. この円板から上は, 支持棒の前後の動きと連動しており, 針が奥に行くほど円板は円錐の頂点に近いところで円錐に接するようになる.

つまり, 針が左右に dx 動くとき, 円板, つまり文字盤の回転する量 dφ は, 針の奥からの距離 y に dx を掛けたものに比例するわけである.



というわけで, 面積計になるのだが, 針を前後に動かす時, 円板が円錐面を横車を押すように動くのが, Maxwellたちの気に入らなかったようである. たしかに, Maxwellの半球と全球の機構はそうなっていない.

また, 円錐の母線が奥の方では低くなるので, 円板や文字盤の高さを変えることも考えなければならない.

Oppikoferの面積計は, 1827年に考案され, 1836年にパリで制作, 販売されたそうだ.

2010年10月18日月曜日

マッチ棒の立方体

すいぶん前のことだが, 数学セミナーにSystem-5というコラムがあった. 東大の高橋秀俊先生, 森口繁一先生, 学習院大学, のちに東大情報科学科の米田信夫先生, 立教大学の島内剛一先生と私が, 持ち回りでなにか書いていた.

今回のブログは, 私が以前そこに書いたものだ.

オランダ Delft大学のvan der Poel先生が大宮の拙宅に来られた時, おみやげといって, 下の写真のようなマッチ棒で出来た箱を下さった. van der Poel先生によると, デンマークのPeter Naur先生(Backus Naur FormのNaurさん)の問題 「接着剤を使わずマッチ棒だけで立方体を作れ」を考えた結果作ったものだそうだ.

van der Poel先生に頂いたものは, 遠の昔にどこかへいってしまった. この写真のは, 私がこの週末に作ったものである.



マッチ棒を90本も使っているから, ちらちらするが, 三面図を書いてみると, このようになる. 第3角法になっていて, 右下が正面図, 左が側面図, 上が平面図である. マッチの軸に色が着いていて, 薬の部分が白くなっている.




原理的には, 下の図のように, 3対のカードを組合わせ, 対同士を輪ゴムで止めると立体が出来るのと同様である.



実際に作ってみると, この写真のようになる.



ただ, 輪ゴムは, 接着剤ではないが, 違反であって, 輪ゴムの代りにマッチ棒を使えばいいのである. (上の図の左下.) この図ではマッチ棒は抜けてしまいそうだ. しかし, 別の面の力で絞められると, 抜けなくなるのである.

というわけで, 下の図のように, 1,2,3,...,21の順で, マッチ棒を組み立てると, この立方体が完成する. この図では, 薬の方に色がついている. 20と21では, 上に薬が来る時に色がついている.





この図と三面図の正面図の対応は, こうだ. 1は正面図の底の緑の横向きのマッチ. 2は下から2段目の青の奥向きのマッチ. 3から17は, 赤の横向き, 奥向きのマッチ, 18は上から2段目の青の奥向きのマッチ. 19は蓋の緑の横向きのマッチ. 20と21は平面図の奥向きのマッチである.

しかし, 実際やってみると, 賽の河原よろしく, 出来上がる前に崩れてしまう. まぁ, 完成するには, よく考え, ちょっとしたノウハウを利用する必要がある. それは ひ み つ.

2010年10月15日金曜日

Maxwellの面積計

Maxwellといえば電磁気学で習う4つの式や悪魔(demon)を思い出す. 昔の学者はなんでも屋で, そのMaxwellは面積計も, しかも2種類も, 発明したことを最近知った.

Internetで探すと, The Scientific Letters and Papers of James Clerk Maxwellにあるこういう図


や, RutherfordJournalにあるこういう図



が見つかる.

今回は, この面積計の説明である.

下の図を見て欲しい.


これは面積計を上から見たところである. 水平に置かれた回転軸ABがあり, 右方に車輪Hがある. 左方には, 半球KCBがあり, Bが極に対応する. 手前の方, VXに沿って動くMと, 半球の中心Sを通る鉛直軸を結ぶ, 伸縮する棒MSがある. MSから直角に出た枠SDがあり, EFを回転軸とする全球ECB'Fが半球にCで接している. MがOの位置にあると, SDはASと重なり, 全球の赤道DB'が半球の極Bに接し, MがOから左へ行くにつれ, 全球はSを中心に上にあがるが, 球面同士は滑らないものとする. 従って, ∠OSMをθとすると, ∠BSC, ∠B'DCもθである.

面積を計測する時は, 面積計を平行に手前に引いたり, 遠方に押したりしながら, Mが図形の周囲を辿るようにする. RutherfordJournalの図の破線や, 台車の右下の車輪から推察出来る通りである. 面積計の押し引きに応じ, 車輪Hが紙との摩擦で回転し, 同軸の半球も回転し, それに接する全球も回転する.

OMの距離をy, OSの距離をh, 車輪Hの半径をR, 半球, 全球の半径をr とし, 面積計をdxだけ奥に押した時の全球の回転角dψを計算してみる. xの正方向は, Hと半球の向こうへの回転, 全球の手前への回転とする. Hの回転角(radian)は dφ=dx/R. するとC点で半球の緯線が鉛直方向に動く距離は, rsinθdφ. 全球のCでの緯線の半径はr cosθ. 全球の緯線も鉛直方向に同じ長さ動くから, 従って回転角dψ=r sinθdφ/r cosθ=dφtan θ. ところで, tanθ=y/h. ∴dψ=dφy/h=(dx y)/hR.

この面積計で円の面積を計ってみる. R=1, h=2, 円の半径=1とする.



最初, Mを計測対象の赤線の円の真下に置く. この時の半球と全球の中央の経線を赤で示す. 以後の図で,この経線の移動が分かる.



円周の1/4のところまでMが移動した. 面積計も奥へ移動し, 車輪Hが回転し, 半球の目印の経線も1radianだけ回った. ここまででスキャンした面積をオレンジ色で示す. それに相当した角度だけ, 全球も回転した.



Mは円の真上まで来た. 面積計はさらに奥まで移動した. 半球も全球も回転を続ける. 半球の回転角は2 radian. 半球の下側に入ったので, 破線で示す.



円周の右を辿って下がり, 3/4来たところ. 車輪も半球も先ほどとは逆に回転し, 面積を記録している全球も逆回転した.



Mは円周を一周した. 半球の経線は元に戻り, 全球の経線は, 面積πの半分を円周に一致して示す.

Maxwellはこの面積計を作成したわけではない. 実際に作るのは難しそうである.