塵劫記では, 解法はすべて実例によるから, 「ここに15129坪有り. これを四方になしては, なにほどに成るぞといふ時に, 123間四方.」のような記述だ.
彼らはなにをやったか見てみよう. 下図参照. われわれの筆算での例も示す. 以下の(a), (b), (c)は下図のa, b, cに対応する.
(a) 「実に15129坪と置き, まず位を見る. 一十百, 一十百とかずへて, あがりたる時, 百と二度あたらば, 百の位と定め,」と始まる. 文頭の「実に」はindeedではなく, 「実という算盤に」の意である. 最上位が100の自乗の位置であることを見つける. 「商に百と置き, 扨, 下法にて, 百より又一十百とあがりて, 百と置き,」
4つ目の算盤は「下法」という名で(塵劫記には「下方」と書いてあったりする), いまは2桁左へシフトしてある. (算盤がずらして置いてある.) 商と下法に百と置くのである. 百の桁に置くのは分かるが, 平方根のその桁をどうして1と決めたかは書いてない.
「この上の法にて, 下法の百, 商の百をよぶ時, 1万坪と成り, 実で除之. 実に残りて5129坪有り.」
下法の百, 商の百を「よぶ」とは, 掛けることと思われる. 上の法にてだから, それを法に置き, 実から引くわけである. (ここでの「除く」は「引く」) 図中の入れ子の正方形の濃い正方形を引いたことになる. 筆算と比べれば, 左部分の a の行が下法, 中部分の a が実, 中部分の b が法である.
(b) 「商の百の次に2十と置く. さて, 下法をば, 1位下げて, 百を1倍して2百と置き, この下に又2十と置く. 」 昔の1倍は今の2倍のことらしい. 商に2十を置いたのは, 平方根の次の桁が決ったのである. この決り方も理由は不明. 百を1倍しで, 筆算の c の行の左の 2 が出来たことになる. 図でいえば1辺100の(下と左の)2辺分が出来た. 又2十を置くは, 正方形の図の薄い部分を引く準備で, 左下の薄い正方形の1辺を足した. 220に20を掛ければ, この部分の面積が得られる.
「さて, 法にて, 下法の2百に商の2十をよぶ. 22の4千, 22の4百, 此の4千4百を実にて引くべし.」 下法の200は220の誤りである. それに20を掛けて引く.
「実に, 残りて729坪有り.」
(c) 「商に, 2十の次に3と置く. 下法をば1位をさげて, 2十を1倍して4十と置く.」 これで e の 24 が出来た. 「此の下に又3と置く. さて, 法にて, 商の3をもって下法によぶ. 23の6百, 34の百2十, 33の9と置くとき, 法に729坪有り. これを実にて引きはらふ也. さて, 商を見れば, 123間四方に成る也.」
大体は分かるが, 平方根の桁に何が立つかの判定は勘によるのだろうか.
塵劫記には開立法, つまり立方根の求め方も書いてあった. 「坪数1728坪有り. これをたて, よこ, たかさ, おなじたけにしてなにほどぞといふ時に, 12間六方也.」私もまだこの開立法の解読はしていないが, この1728が12の3乗なことは覚えている人も多かろう. ところで坪は平方間と思っていたが, 立方間も坪というのかな.
9の3乗=729も覚えている人に:
「彼(Ramanujan)がパトニーで療養していた時, 見舞いにいったのを(Hardyは)覚えている. 1729番というタクシーに乗ったので, その数には何の面白味もないといい, それが悪い予兆でないことを望むといった. 『いや』彼は答えた『それは非常に興味のある数だ. それは二通りで二つの立方数の和で表現出来る最小の数だ』」 (計算機プログラムの構造と解釈 第二版 203ページ 脚注70) 1729=123+13=103+93だから, Ramanujanでなくても知っていた人はいたに違いない.