2010年11月1日月曜日

楕円コンパス

この世には円(お金ではない)も多いが, 楕円はもっと多いに違いない. 丸いものも正面以外の方向から見ればみな楕円に見える. そもそもが, 惑星の軌道から楕円である. また円は楕円の特殊な場合に過ぎぬ.

正弦や余弦の曲線も正確に手書き出来る人はまずいないが, 楕円や放物線も正確には書きにくい曲線である. 最近楕円型の炬燵があると聞いたが, 見ると陸上競技のトラックの形(小判形)であった. 世の常識はそれも楕円だ.

小学生の頃習った楕円の書き方は, 2本のピンと糸を使うものであった. 実際にやってみると, 鉛筆の芯から糸が外れたりで, 結構苦心する. 与えられた長径2a, 短径2bの楕円を描こうとすると, まずピンの間隔を2√(a2-b2), 糸の輪の長さを2(a+√(a2-b2))にしなければならず, 糸の輪の長さをこのように正確にするのは, 極めて難しい.

従って, 製図では, 楕円上の点を適当にとり, 雲形定規でつなげて描いたりする.

最近はPostScriptさまさまで, 縦横のスケールを変えて円を描けば簡単に出来るようになった. しかし線の太さも影響を受けるのが問題である. 長径a, 短径bの楕円は,

a 0 moveto
1 1 360 {dup cos a mul exch sin b mul lineto} for stroke

で描くのがよい. Processingはellipse関数の方が基本で, 円はその特殊なケースとする. この方が正しいやり方である.

しかし, やはりコンパスで円を描くような, 名案はないであろうか.

Archimedesの楕円コンパスというものがある. 我が家にはそのおもちゃがある.



おもちゃとしては, これは何の軌跡かというクイズなのだが. ...

Archimedesの楕円コンパス下の図のようなものだ.



長さaの棒の一端Pに筆記具, 他端と, 筆記具からbの距離に, それぞれ短軸, 長軸に沿って動くスライダN, Mをつけ, その棒を回転すると, 長径2a, 短径2bの楕円が描ける. この動画はここにある.

∠PMQをθ. Pの座標をx, yとする. x=a cos (θ), y=a sin (θ) - (a - b) sin (θ) = b sin (θ)で, Pの軌跡は, 長径2a, 短径2bの楕円になる.

2007年に東京国立博物館で,「レオナルド・ダ・ヴィンチ--天才の実像」という特別展があった. 殆んどの入場者には, 「受胎告知」が関心の的であったろう.

私の場合は, 「レオナルドの書斎」が面白く, 中でもアトランティコ手稿に基づく楕円作図のためのコンパス[複製]に目がとまった.



上の図のようなものである. 通常のコンパス同様, 回転軸ABがあり, Aを固定し, Bをつまんで回す. 通常のコンパスとは異なり, 軸は傾斜している. その傾斜角を維持するために, 支柱CDとCEがある.

軸上の点Qから腕QPが分かれており, Pに筆記具を着ける. AQPの角 θ が一定になるようにして, 軸を回すと, Pが楕円を描くという仕掛けである. ただし, PQは, 軸が傾斜しているから, 通常のコンパスと違い, 伸縮できなければならない.

このコンパスに味噌は, θを一定にして軸を回転すると, QPを母線として円錐が描け, それを平面で切っているのである.

なるほど, 円錐を斜めに切ると楕円が出来ることの応用と思い, さっそくアニメーションのプログラムを書いた.

これは面白かったので, 2007年のlightweight languages spiritで話をした.

円錐を斜めに切ると, 卵形ではなく, 楕円になるというのも, 直ぐには信じ難い.


上のような図を描くといちおう納得する. 円錐を右上から左下へ平面で切った断面である. 円錐と切った平面に上から内接する球を O , 下から内接する球を O'とする. O と円錐の接円, O'と円錐の接円は赤い横線のようになる. また, O , O' と切った平面の接点をそれぞれ F, F' とする.

さて, 任意の母線ABを考える. この母線と Oの接円, 切った平面, O'の接円との交点を, T, P, T'とする. 球面外の点から, 球面へ引いた接線の, 接点までの距離は等しいから, PT=PFであり, PT'=PF'である. 従って, FP+F'P=PT+PT'=TT'=一定となって, Pは楕円となる.

ところで, da Vinciのコンパスの最大の問題は, 伸縮する腕のことだ. 長い時と短い時の長さの比が大きい腕は作るのが困難である. つまり離心率の大きい楕円は描けない. 私の図でも, 比を2:1にとるのがやっとであった. 要するにこのコンパスは話だけで, 実用には遠いのだ.

2 件のコメント:

Unknown さんのコメント...

Legoで作れそうですね。試してみないと。

GB さんのコメント...

http://mathworld.wolfram.com/Superellipse.html
http://en.wikipedia.org/wiki/Superellipse
http://www.google.co.jp/images?hl=ja&rlz=1T4TSJH_jaJP367JP367&q=Superellipse&um=1&ie=UTF-8&source=og&sa=N&tab=wi&biw=894&bih=315
   等も在ります。