2009年12月12日土曜日

微分解析機

その昔, 微分解析機という低速のアナログ計算機があった. 1階の常微分方程式を解く機械式の積分機を何台かと, 入出力テーブルを持ち, その間の情報は多くの廻転軸で伝達した.

Wikipediaによれば, 原理を発明したのは1876年, James Thomsonで, 実用機の製作は1927年, MITのVannever Bushによる.

我が国にも2, 3台はあったらしい. 神楽坂にある東京理科大学の近代科学資料館にいくと, 展示されている. 私は1950年代に, 東大生産技術研究所にあった大型機を見学したことがある.

ないよりは数段ましの計算機だが, 大阪大学にいらした, 清水辰次郎先生(1887-1992)が微分解析機の使用経験を書かれたものを読むと, これを使うのは, 結構大変であったらしい.

清水先生の話は

d2x/dt2-μ(1-x2)dx/dt+x=0

を積分機2台の微分解析機でどう解いたかというものである. この微分方程式はVan der Polの式といって, 非線形屋さんの好きなものである.

2階の式は2つの変数に分け, 1階の連立にするのが常道である.
dx/dt=y      積分機0番
dy/dt=g(x,y)    積分機1番
where g(x,y)=μ(1-x2)y-x

xの初期値を1, yのを0, μを0.1にして, この結果をxとyとの図にしたのを下に示す.


今ではPCで簡単に図が描けるが, 昔は手間がかかったので, こういうきれいな図が得られると, 額にいれた飾っていた人もいた.


さて, 阪大の微分解析機は積分機が2台あったから, これで解けそうに見えるが, 問題はμ(1-x2)y-xの計算である. 微分解析機の変数は前述のように廻転軸なので, 最後の引き算は差分ギアを使えばよいし, 最初のμの掛け算はμが定数なので, ギア比で実行できる. xの自乗やそれにyを掛けるように, 変数同士の乗算があると, 微分解析機は積の微分の式を使い, 2台の積分機を使うことになるのだが, 阪大には余っている積分機はない.

そこで聞くも涙の話になるのだが, 清水先生は, 固定したμと, ある範囲のxとyとに対して, g(x,y)をあらかじめ計算し, 表か図にした.

適当な初期値から, (例えばx=1, y=0から,) 起動するとき, それに対応するg(x,y)を積分機1番に入力する. するとx, yが計算され, 出力テーブルにプロットされる; その値を読んで1人が叫ぶと, もう1人がそれに見合うg(x,y) を入力するという, 恐ろしいことをやった. この遅れが誤差になるのは承知の上だが, 傾向をみるだけにはそうするしかなかったのであろう.

私の興味は, g(x,y)はどういうものかにあった. 微分解析機では, f(x)のような1変数の入力なら, 入力テーブルにこの関数形を描いておき, 人手でトレースするなり, 生研の機械なら, 光電管で曲線を自動追尾するなりして, 入力出来るが, gは2変数関数なので, 3次元の入力装置を作れば自動化できたかも知れない. それで関数の形が知りたかったのである.

-4≤x,y≤4について, 0.2おきにg(x,y)を描いたのが下である. もちろん3次元には表示できないので, 高さを向こうへ倒して表現してある. つまりy=4は一番上の線で, 基準が赤線であり, x=-4のとき, g(-4,4)=-2と読む. 他の3つの隅の例では, g(-4,-4)=10, g(4,4)=-10, g(4,-4)=2である.


これならなんとか立体模型をつくり, 入力装置も出来たのではないかと想像する.

この後, この図を等高線で描いてみた. 等高線のプログラムは, 天気図を描きたいという人などが, 昔から挑戦しているが, 私は始めてプログラムしてみた.

それが次の図である.


さらに, 横倒しの図と等高線図を重ねたものも示す.



積分だけでなく, こういう描画も楽になったとつくづく思う.

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